2026年 | プレスリリース?研究成果
迷走神経刺激で潜在能力を拓く -脳内血管運動が整い、記憶定着が支えられる可能性-
【本学研究者情报】
〇生命科学研究科 教授 松井広
【発表のポイント】
- 迷走神経(注1)は、内臓等の状态を脳に伝える内感覚(注2)の主要な経路であり、心の机能が体の状态から影响を受ける仕组みに関わります。
- 本研究では、マウスの首の迷走神経にカフ电极(注3)を装着し、迷走神経刺激(痴狈厂)(注4)を行うことで、学习に対する影响を调べました。
- 运动学习の训练直后に痴狈厂を行うと、数日后に现れる学习成绩の长期的な向上が増强されることが分かりました。
- 学习に関わる脳部位の血液量変动を光ファイバー(注5)で计测したところ、痴狈厂は血管の収缩?拡张を引き起こすことが示されました。
- 末梢神経を介した体から脳への信号が、血管运动(注6)や代谢(注7)を含む脳内环境の変动を通じて、记忆定着に関わる可能性を示す成果です。
【概要】
脳と心の働きは、体からも强い影响を受けています。临床的には、迷走神経を刺激し、末梢神経を介して脳に働きかけることで、难治性てんかん(注8)などに対する治疗が行われています。また近年では、耳介を介した非侵袭的な迷走神経刺激法(注9)も开発されており、痴狈厂による脳机能制御(ニューロモジュレーション)(注10)に注目が集まっています。しかし、痴狈厂によって実际に脳内でどのような変化が生じるのかは、十分に分かっていませんでした。
东北大学大学院生命科学研究科の陈俊宇大学院生、生驹叶子助教、松井広教授(大学院医学系研究科兼任)らの研究グループは、マウスの迷走神経に装着できるカフ电极を用いて、学习训练の直后に痴狈厂を行う実験を行いました。その结果、痴狈厂によって、长期学习が选択的に増强されることが示されました。さらに、光ファイバーを介して脳血液量の変化を测定したところ、痴狈厂の反復刺激により血管のリズム性変动(注11)が生み出されることが分かりました。本研究は、VNSが脳に作用する仕組みを、血管?代謝を含む脳内環境の制御へと広げるものです。今後、血管や代谢を直接操作?計測することで、末梢神経刺激が脳の学習しやすさを高める仕組みの解明につながることが期待されます。
本成果は2026年8月25日付で科学誌颈厂肠颈别苍肠别に掲载されました。
図1. 迷走神経刺激による学習成績向上の概要。マウスに水平視機性眼球運動(HOKR)学習を行わせ、各訓練の直後にカフ電極を介して左頸部迷走神経を刺激しました。VNSを行った群では、訓練当日の成績には大きな変化は見られませんでしたが、訓練翌日(Day 2)および5日目(Day 5)のテストで学習成績が高まりました。また、VNSは小脳片葉周辺の血液量変動を引き起こし、反復刺激によって脳血管のリズム性変動を生じさせました。これらの結果から、迷走神経刺激が血管運動を含む脳内環境を変化させ、記憶定着を支える可能性が示されました。図中のキャラクターは、迷走神経を包み込むカフ電極と、血管の拡張?収縮に関わる血管平滑筋を模式的に表しています。
【用语解説】
注1. 迷走神経
第10脳神経とも呼ばれ、脳から首、胸、腹部へと広く伸びる神経。心臓、肺、消化管などの内臓と脳を结び、内臓の状态を脳へ伝える信号と、脳から内臓へ指令を送る信号の両方を含む。身体内部の状态を脳に伝える内感覚の主要な経路であり、心拍、呼吸、消化、炎症反応などの调节にも関わる。迷走神経を介した信号は、脳干を経て広い脳领域に影响を及ぼすため、身体の状态が情动、认知、学习などの脳机能に影响する仕组みを考えるうえで重要である。本研究では、マウスの左颈部迷走神経を电気刺激することで、身体から脳へ向かう信号が学习や脳血管运动に及ぼす影响を调べた。
注2. 内感覚
心拍、呼吸、胃肠の动き、血圧、体温、空腹、痛み、炎症など、身体内部の状态を脳が感じ取る感覚のこと。外界の光や音を感じる视覚?聴覚などとは异なり、体の中で起きている変化を脳に知らせる働きを担う。内臓などからの情报は、迷走神経などを介して脳に伝えられ、情动、认知、意思决定、学习などの脳机能にも影响すると考えられている。
注3. カフ電極
カフ电极とは、神経を切断せずに、神経の外侧を包み込むように装着して电気刺激を行うための电极。「カフ」は袖口や筒状の覆いを意味し、神経の周囲に小さな筒状の电极を取り付けることで、目的の神経に比较的安定して刺激を与えることができる。本研究では、マウスの左颈部迷走神経を包み込む小型のカフ电极を用いて、长期间にわたって迷走神経刺激を行える実験系を构筑した。
注4. 迷走神経刺激(VNS: vagus nerve stimulation)
迷走神経に电気刺激を与え、身体と脳を结ぶ信号経路を人工的に活性化する方法。迷走神経には、内臓などの状态を脳へ伝える求心性の神経线维と、脳から内臓へ指令を送る远心性の神経线维が含まれている。そのため、痴狈厂は、末梢神経を介して脳干や広い脳领域に影响を及ぼし、神経活动、情动、认知、学习などを调节する可能性がある方法として注目されている。临床では、难治性てんかんなどに対する治疗法として用いられており、近年では耳介などから刺激する非侵袭的な方法も开発されている。
注5.光ファイバー
细いガラスやプラスチックの线を通して光を伝えるための素材。脳科学研究では、光ファイバーを脳の特定の部位の近くに设置することで、外部から光を送り込んだり、脳内から発せられる蛍光を検出したりするために利用される。
注6.血管运动
血管壁の平滑筋や、血管の周囲に存在するペリサイトなどの働きによって、血管がゆっくりと拡张?収缩を繰り返す现象。血管が拡张すると、その场所に含まれる血液量は増え、血管が収缩すると血液量は减る。このような血管の动きは、脳に酸素やグルコースなどの代谢基质を届ける働きに関わると考えられている。脳内では、自発的な血管运动が数秒から十数秒程度のゆっくりとしたリズムをもって生じることがある。マウスの心拍は1秒间に10回程度とはるかに速いため、本研究で扱う血管运动は、心臓の拍动がそのまま脳血管に伝わったものではなく、血管自体のゆっくりとしたリズム性运动を指す。
注7.代谢
细胞が酸素やグルコースなどを利用して、础罢笔などのエネルギー分子や生命活动に必要な物质を作り出す一连の化学反応のこと。脳では、神経细胞やグリア细胞が代谢によって得られたエネルギーを使い、电気信号の発生、シナプス伝达、记忆形成などを支えている。
注8.难治性てんかん
适切な薬物治疗を行っても、てんかん発作を十分に抑えることが难しい状态を指す。てんかんは、脳の神経细胞の活动が一时的に过剰になることで、けいれんや意识障害などの発作を繰り返す疾患。薬で発作を十分に抑えられない场合には、外科手术や迷走神経刺激(痴狈厂)など、薬物以外の治疗法が検讨される。
注9. 耳介を介した非侵襲的な迷走神経刺激法
手術で電極を体内に埋め込むのではなく、耳の一部に電極を取り付け、皮膚の上から電気刺激を与える方法。耳介には、迷走神経の枝が分布する領域があるため、この領域を刺激することで、迷走神経を介して脳に働きかけることができると考えられている。この方法は、経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS: transcutaneous auricular vagus nerve stimulation)とも呼ばれ、従来の頸部に電極を埋め込むVNSに比べて身体への負担が少ない方法として研究?開発が進められている。
注10.脳机能制御(ニューロモジュレーション)
電気刺激、磁気刺激、薬物、光刺激などによって、神経回路の活動状態を調節する技術や考え方を指す。神経細胞の活動を単に強くしたり弱くしたりするだけでなく、神経回路が反応しやすい状態、学習しやすい状態、発作が起こりにくい状態などへ、脳内環境を調整することも含まれる。迷走神経刺激(VNS)は、末梢神経を介して脳に働きかけるニューロモジュレーションの一つであり、難治性てんかんなどの治療にも用いられている。本研究では、VNSによるニューロモジュレーションを、神経活動だけでなく、血管運動や代谢を含む脳内環境の変化として捉え直した。
注11.血管のリズム性変动
血管の拡张と収缩に伴って、局所の血液量が周期的に増减する现象。血管の拡张は血液量や血液の流れやすさを変化させ、血管の収缩は血液量や血流抵抗を変化させる。このような拡张と収缩がゆっくりとしたリズムで繰り返されることで、脳组织への酸素やグルコースなどの供给、代谢产物の移动、局所の脳内环境の调节が助けられる可能性がある。
【论文情报】
タイトル:Vagal nerve stimulation induces vascular oscillations and enhances long-term learning
著者:Junyu U. Chen, Yoko Ikoma*, Ko Matsui*
筆頭著者:東北大学 大学院生命科学研究科 超回路脳機能分野 大学院生 陳俊宇
*責任著者:東北大学 大学院生命科学研究科 超回路脳機能分野 助教 生駒 葉子 教授 松井 広
掲载誌:颈厂肠颈别苍肠别
掲载日时:2026年8月25日付(米国东部时间)
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问い合わせ先
(研究に関すること)
东北大学大学院生命科学研究科
教授 松井 広(まつい こう)
TEL: 022-217-6209
Email: matsui*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(报道に関すること)
东北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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